2005年08月19日更新
唐戸市場はかつて5棟で構成した市場で、国道9号を挟んで両側にあった。旧市場は1933年の竣工以来、戦災もかいくぐって生き延びてきたが、老朽化や火災により次第に数が減り、2001年に最後の1棟が撤去された。新しい唐戸市場はあるかぽーと開発の一環として、海響館(2001)やカモンワーフ(2002)とともに目玉施設として計画された。
あるかぽーと開発の基本構想は「海峡まるごとテーマパーク」だから、新しい唐戸市場も卸売市場といっても観光客相手の小売機能を併せ持つ。金、土、日の昼前後は仲卸や小売店が軽食を出し、遠方からの来客が群がるそうだ。ただし、安くはない。
新しい唐戸市場は磯崎新設計の西日本総合展示場(1977)でも見られる斜張式の吊り天井が特徴だ。構造設計は斉藤公男が担当した。吊り天井は基本的には斜張橋と変わらない。ただ、道路が線なのに対して天井は面だから、主塔を横に並べる必要がある。
西日本総合展示場の吊り屋根は、建物の平側の左右に直立の主塔を8本ずつ(計16本)立て、8本の細い綱で屋根全体をまんべんなく吊り上げ、反対側の地面へ3本の太い綱を下ろして屋根を引っ張り上げる。だれにでも吊り天井と分かる単純明快な構造だ。
一方、唐戸市場の吊り屋根は、並列した6本の短い主塔が建物内部から突き出し、一方の綱で屋根の中ほどを吊り上げ、反対側の一方は外壁の柱に結んで屋根を引っ張り上げる。屋根は傾斜があり、吊っている側のほうが引っ張る側よりも位置が高い。よって、引っ張る側の綱を手繰って、主塔も自然に手繰る側に曲がった。
ちなみにこの吊り天井は屋根面積の半分しか吊り上げていない。もう半分は張弦梁構造(図解)になっている。この屋根の下に45m×50mの無柱空間を実現した卸売場がある。
なぜこんなややこしい屋根なのか。これしきの屋根は張弦梁構造だけで十分に達成できた。しかし、これこそが池原義郎と斉藤公男の遊び心だったろう。遊び心に理由は要らない。張弦梁構造と斜張式吊り構造を無柱空間の真ん中で繋ぐという世界初の離れ業を試してみたかった。
構造の面白さは普遍的だから、建築家の感性に基づく個人表現よりはるかに受け入れられやすい。新しい唐戸市場は2003年度の第44回建築業協会賞(BCS賞)を難なく受賞した。
旧市場は隣接する亀山神社から敷地の一部提供を受けたため、屋上に常夜灯を並べ太鼓橋を設けて神社の参道とした。新しい唐戸市場は吊り天井なのに屋上を土で覆って緑化し、一般市民に開放した。新市場は旧市場の屋上利用の伝統を受け継いだわけだ。なお、屋上へ上るには旧市場と同様に外付けの階段を上ってゆけばよい。
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