ガゾーン関門北九州圏

2009年2月1日更新

唐戸交差点の四つの近代建築

設計・施工
本文の各項目下に掲載
竣工・規模等
本文の各項目下に掲載
場所
下関市唐戸町4-11(旧英国領事館)

下関の旧市内

下関市はわが国で初めて市制が施行された1889年に赤間関市として発足した。このときの市域は唐戸から下関駅付近までの関門海峡に沿った狭い範囲だった。下関市民はこの範囲を「旧市内」と呼ぶ。現在では715.86平方キロの面積を有す巨体となったが、下関市の原点は赤間関にあり、その赤間関の中心地が唐戸だった。

下関の都心移動は1901年に山陽鉄道馬関駅が西細江(現在の海峡メッセ下関付近)で開業したことを契機に始まった。1942年には関門鉄道トンネルが開通、駅はさらに西の竹崎町へ移った。唐戸の凋落が決定的になったのは、1971年の山陽電気軌道(路面電車)全廃によるところが大きい。これにより唐戸は陸の孤島と化した。

唐戸は北九州で言えば中央町と重なり合う部分が多い。唐戸ではあるかぽーと開発、中央町では東田開発が行われ、近年ふたたび脚光を浴びるようになった経緯もよく似ている。唐戸に古い建物が残るのは、都心移動により開発が不活性化したからで、盛衰の落差が大きい場所は、ここに限らず古い時代のよいものが生き残る。

現在の唐戸は市内自動車交通の一大要所で埃っぽい印象が拭えない。若松南海岸や門司港では周辺環境が近代建築を盛り立ててくれる。唐戸では周辺環境が近代建築をねじ伏せているように思える。建物の意匠が冴えないせいもあろう。唐戸交差点のレトロはさりげなく、日常に溶け込んで存在感を主張しない。

下関南部町郵便局

下関南部町郵便局(旧赤間関郵便電信局)は、国内最古の郵便局建築にして現役の特定郵便局。木造に見えるが煉瓦造。屋根は木造瓦葺きで、外壁はモルタル横目地仕上げ。木造風の煉瓦造というのは妙な感じがする。

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建物はコの字形で奥行きがあり、正面からは窺えないが中庭がある。中庭に面した壁は半ば崩れたような煉瓦で、歳月の経過を感じさせる。1階窓は円弧アーチ、2階窓はギリシャ風。正面中央の玄関部の屋根に冠のような欄干を飾る。2001年に国登録文化財に指定された。

観光施設化した近代建築にはわざとらしさがつきまとうが、この建物はいまも昔のままに日常生活の中にある。内部に足を踏み入れれば、時が百年前に回帰したような感覚に陥る。もっとも、この建物も非日常の存在に移る過程にあり、結婚式などの用途外の利用が増えてきた。やがて他の近代建築と同じように鑑賞の対象になろう。

1900年竣工。設計は三橋四郎、施工は岩崎組。煉瓦造、地上2階、延床面積920㎡。

秋田商会

秋田商会は、鉄筋コンクリート(RC)造としては日本最古の事務所建築。事務所兼住宅として施主が自ら設計に関与したという。現在は下関市の観光情報センターで、建物内部も見学できる。

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建物は角にドームを載せた円筒を立てて玄関を設ける。外壁には化粧タイルを張り、腰の部分に御影石をあてがうなど金を惜しまない。

外観は洋風あるいは東洋風に見えるが、住居となる2~3階の内部は純和室で構成する。和洋折衷の走りだ。狭い塔屋の螺旋階段を上って屋上に出ると、茶室付きの庭園が広がる。趣味の世界だ。内容が濃いわりに野暮ったく見えるのは素人設計だからか。

1915年竣工。設計は秋田寅之助+新富直吉、施工は関門商事。RC、地上3階地下1階。

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秋田商会と南部町郵便局は隣り合う。主要な近代建築が隣り合う例は若松南海岸にもあるが、こちらは地方の近代建築としては共に大規模の部類に入り、しかも「最古」同士の組み合わせだ。それにしても唐戸はライトアップが野暮ったい。これでは建設現場の仮設投光器が光を当てているのと変わらないではないか。

旧英国領事館

旧英国領事館は、日本で三番目に設けられた英国の領事館。下関と門司のどちらに領事館を設けるべきかで英国政府内の意見が割れた際、高杉晋作を信頼して講和をまとめたアーネスト・サトウ(1843-1929)が下関設置を進言した。現在は市民ギャラリーとして利用する。

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建物は石柱の2階建て拱廊(アーケード)を組み込んでベランダを設けた植民地様式。拱廊はロダン美容室(1907)などにも見られ、下関のこの時期の建築の特徴をなす。窓の上下部分の高さで補強材の石を挟み、窓枠や玄関などにも石を用いて、赤煉瓦と石を対比させた。煉瓦は英国から取り寄せたという。

純西洋建築としてみた場合、特に優れた様式や意匠を持たないこの建物が、1999年に国重要文化財に指定されたのはやや意外だった。

1906年竣工。設計はウイリアム・コウワン。煉瓦造、地上2階、棟高11.2m、延床面積308㎡。

関門ビル

関門ビルは、門司港―唐戸間の連絡船などを運航する関門汽船(本社、北九州市)が建設した事務所ビル。戦前の雑居ビルが現在も残存し、店子が入るのはめずらしい。本来は密集市街地にあるべき建物で、駐車場の片隅にぽつんと立地するのは不本意だろう。

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建物は国道9号を挟んで旧英国領事館の反対側にある。東側はカモンワーフ、西側は下関グランドホテル、裏は唐戸桟橋。唐戸の中でも一等地にあたる。2002年に補修を受けてきれいになったが、道路拡幅のため近い将来に撤去される。余命は短い。

1931年竣工。設計は早川、施工は籠寅組+間組。RC、地上4階一部5階。

門司がレトロなら下関はモダン

下関市は近代建築の保存に熱心ではない。「門司港がレトロなら、あるかぽーとはモダン」と言っているように、古い建物は難癖をつけて撤去し、真新しい施設を建設することを好む。

一方、市民は過激なほど近代建築の保存に熱心で、英国領事館や下関市役所第一別館(1924)を解体撤去の危機から救ったのは市民だった。現在は旧山陽ホテル(1924)の救済に乗り出している。

下関市民には明治維新により日本近代化の礎を築いたという自負がある。かれらはその自負のよりどころとして、形ある建築物を見出した。相次ぐ近代建築の解体撤去に、かれらは精神の危機をも感じているのだろう。

2004年7月26日撮影、2004年8月9日作成

資料

参照記事(外部サイト)
下関南部町郵便局 - まちよそ
旧英国領事館 - まちよそ
秋田商会 - まちよそ
関門ビル - Rody
関連項目(ガゾーン内)
唐戸市場 - 唐戸桟橋。吊り天井に張弦梁構造を組み合わせた大屋根。
カモンワーフ - 唐戸桟橋。飲食小売複合施設。道の駅の海辺版。
下関グランドホテル - 唐戸桟橋。下関でもっとも格式の高いホテル。

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Four Prewar Buildings around Karato Intersection, Simonoseki