2010年6月10日更新
企救丘六丁目の斜面には5棟の階段状マンションがある。規模は最大で上下14層×横15列。北九州の新しいランドマークとしては、もっとも並外れたものの一つではないか。斜面型マンションは斜面ゆえに地代は安いが、造成工事費が高く、購入者の人気も高いことから一般には高級マンションが多い。ただ、この場所に関していえば、高級を決定づける斜行エレベーターや立派な共同玄関を持つ建物はなく、斜面長屋の趣きがある。
斜面といえば地盤の状態が気にかかる。北九州は埋蔵鉱物が豊富なことからも窺えるが、地層が形成された年代が古く、古第三紀の礫岩層からなる。紫川の東側などの堆積地を除けば、ニューヨークよろしく超高層ビルをベタ基礎で建築できる。地滑りは岩盤上の表層砂礫が滑るだけで、地盤ごと崩壊することは考えにくい。
ここのように大規模に表層を削って、岩盤層の上に工場生産したパターン化住宅を設置する場合は、かなり安定しているのではないか。仮に地盤がよくないとしても、これだけ斜面を建物で覆いつくせばコンクリートで固めたのと同じだろう。
5棟の中ではもっとも好位置を占める。建物は清閑な南斜面にあり、正面は徳力の平地面に接す。モノレール徳力公団前駅からは徒歩で3~5分。外観も好立地にふさわしく5棟の階段状マンションの中ではもっとも高級な感じだが、7層もあるのに階段が上下に通り抜けできないのがいただけない。
階段が封鎖されているために上の斜面に住む方はたいへんな遠回りをしなければならず、この建物は駅前でも上の建物は車がないと生活できない。公共性が認められる場合は、私有地であっても配慮が必要だった。
凹凸のある険しい斜面にある。リンデンハイツの造形は複雑で、絶壁にある右側2列は単なるセットバックした5階建て、左側2列は傾斜角度が波打った斜面型9層という組み合わせになる。
法的にどういう状態なのか知らないのでなんとも言えないが、素直に斜面を削って垂直に建てたほうがエレベーターが設置できる分だけよかったのではないか。9層もあってエレベータがなく、階段も上で閉じているさまはグランドパレスより悪辣だ。
で、これではまずいと思ったのか、建物の4層目をぶち抜いて上層の各戸に1台分の駐車場を設けた。設計者は乱暴者だろう。
典型的な斜面長屋。ひな壇に造成した土地に斜めに建物を連ねた。9層あるが上下に車庫があり、上で閉じた構造のグランドパレスやリンデンハイツに比べれば、いくらか高齢者や障害者にやさしい。階段は通り抜けできるため、高台の住民にも利益がある。
よく手入れされた植込みがたいへん好ましい。この建物だけは西北斜面にあり、南側は地面の下になる。しかし都心から皿倉山、福智山、平尾台まで見晴らせる眺望が素晴らしい。
南斜面のグランドパレスの上にある。コーポランドⅡの類型だが、幅がやや広い。建物上部が正面で、駐車場を介して2車線道路に面す。階段は上下に通じるが、上下の道路に連絡はない。下の道路は狭い。
それにしても斜面型建物の採光と眺望は別格だ。遠くが見晴らせるという点では通常の高層階と変わらないが、空の広さがまるで違う。この開放感と安定感は高層ビルでは望めない。建物がセットバックしているから、仮に真正面に大きな建物が建っても、採光と眺望を完全に失うことはない。斜面地の不便は枚挙にいとまないが、眺望と採光の誘惑は大きい。
コーポランドⅠと同様に上部が正面。規模は最大10層×6列で、階段は上下に通じる。建物は列の独立性が高いのが特徴だ。上部は二階建てアパートが並んだ風のさりげない佇まい。側面に灰色と橙色の水平線を交互に引き、灰色の屋根を乗せた外観は南フランス地中海風か。建物自体は廉価だが、全体の配置計画や色彩計画がうまく、5棟の中ではもっとも華やいだ雰囲気がある。
企救丘六丁目は斜面の傾斜がきつい部分に階段状マンションが立地し、丘の上は高台住宅地になっている。下の写真はコーポランド徳力Ⅱの最上階が面した場所から眺めた高台住宅地。
正面に高度成長期乱開発風の階段が見える。斜面に柱を下ろして人工地盤を設けた家まである。いや、ここはこう見えても1980年代以降の造成だ。長い階段を登らなければ玄関にたどり着けないような家はない。段差はあってもどの宅地前にも道路が通る。ただ、こんな醜態を演じるくらいなら、階段状マンションのほうがマシに見える。
北九州は土地の供給に大きな余裕があり、古い高台や斜面地は荒廃が深刻だ。疲弊した都市部の高台を嫌い、新しく切り開いた土地に住居を求めたがる気持ちは分からなくはないが、同じ過ちを繰り返してどうするのか。郊外、特に高台や斜面地は水道などの社会資本への負荷が大きく、高齢化対応も割に合わない。
これからは市街地を使い捨てる時代ではない。年老いて捨てなければならない住宅はもういらない。使い捨てられる場所に住めば、30年後の土地家屋はタダ同然で、居住者本人が背負い込む経済的損失も大きい。
街なかに遊休地はいくらでもあるのだから、社会資本と居住者の双方に重い負担を強いる高台や斜面地には厳しい開発規制を設け、人がいなくなった場所から森に帰すべきだろう。
2003年6月作成
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Kikugaoka 6 tyôme South Slope