2006年1月23日更新
中津や宇佐の人は車窓に八面山を眺めると故郷へ帰ってきた気分になるそうだ。八面山は阿蘇山の噴火によって形成された卓状溶岩台地で、耶馬日田英彦山国定公園の北東端を占める。どこから見ても同じ形に見えることが名前の由来という。古くは箭山と呼んだ。山容が締まらないため多少大きめの里山のように見えるが、実は標高が約650mもあり、険しい断崖絶壁を持つ岩山だ。
山頂部にある無線中継所基地までは観光道路があり、自動車で難なく登れる。道すがら中津や周防灘の眺望が楽しめるが、観光道路を登りつめた地点は森の中で遠望はきかない。
無線中継所基地からは平らな八面山の山頂を尾根伝いにぐるりと一周めぐる自然遊歩道がある。遊歩道は四つの観望と山頂を経由し、それぞれで絶景が楽しめる。行程はぶらぶら歩いても2時間あれば十分だろう。装備は必要ないが、岩場や急斜面はある。つるつる滑る革靴での散策は厳しい。
車は道路脇に乗り捨てて、無線中継所基地から「しょうけのはな」と呼ばれる東南端の山頂までを案内しよう。
入口標。山頂まで700m。平坦な道のりではないから、倍以上の距離を歩く労力が必要だ。もっとも途中に観望があってそれぞれで到達感を味わえるから、距離はさほど苦にならない。
観光道路から階段を下りて森の中へ。遊歩道は奥へ進むほど道が険しくなるが、このあたりは歩きやすい。
第一観望へ登る階段。写真は登りきったあたりで下を振り返る。階段がなければ雨や雪の日は滑って登れまい。
最初の観望。入口から急ぎ足で5分。この3mほどの巌によじ登れば景色を楽しめるが、看板に偽りはなく、とても危険だ。巌は本耶馬溪側が断崖絶壁。どんな景色が開けるか興味のある方のために、わたしが代わりによじ登ったから、あなたは無理をしないで先へ進むのが望ましい。なお、本耶馬溪の景色は第二観望で存分に楽しめる。
巌によじ登って来し方を振り返る。正面奥の無線塔の下にわたしが乗り捨てた銀色の車がぽつんと見える。そこが観光道路の行き止まり地点になる。奥は周防灘で、右手には中津市街がかすんで見える。
反対の宇佐市街を望む。上の写真を押すと拡大写真を開く。周囲は気高い枯れ木が多い。空を目指す木々は雷電に打ち砕かれる運命にある。
第一観望から歩くこと数分。平坦な散歩道をそぞろ歩いてあっという間に第二観望に到着する。第一観望は眺望が開けずがっかりするが、第二観望は山頂よりも満足度が高いかもしれない。
本耶馬溪側には10人ほど座れそうな平らな安山岩が露出し、絶壁となって100mほど落ちる。八面山南壁は岩登りで有名な場所。断崖に松がよく映える。こちら側に見える林道は、中津から八面山へ上る観光道路とはつながっていない。
第二観望からは遮るものなく180度のパノラマが広がる。上の写真を押すと別窓で開く。
第二観望からはやや道が険しい。苔むした岩場を越え、手をついて崖を下りると、山頂へまっしぐらに伸びる最後の坂道が見えてくる。
八面山の山頂下。北九州の山は標高650mにもなれば草地のはずだが、ここは山頂部が平らで広さがあるため、吹きすさぶ風が木々を薙ぎ倒すことがないとみえる。苔むすくらいだから空気はむしろ淀んでいる。あの光差す場所が山頂だと言われても実感が沸かない。
山頂は東南端にあり、絶壁となって落ちる。標高650.4m。遊歩道入口から脇目もふらず急ぎ足で進むのなら12分程度でたどり着く。山頂は狭く、樹木が生い茂って開放的な雰囲気はない。
南方向の岩場からかなたの眺望が開け、遠くに由布岳が聳える。眼下に広がる景観は阿蘇の大噴火がもたらした。幾星霜を経て森に覆われた今もそこかしこに岩場が露出し、荒涼の面影を留める。
山頂からの眺めはどこでも気分のよいものだが、ここは単に眼下に世界が広がるだけでなく、遥かの高峰と対峙した感覚がいい。だれもいない山頂で巌に立てば、あそこまで羽ばたいてゆけそうな気がする。
この先は第三観望、第四観望(ともに宇佐、国東半島の眺望が開ける)、小池をめぐり、元の観光道路へ戻る。わたしは山頂を一周できると知らなかったため、来し方へ引き返した。
撮影 2003年8月15日 | 文 2004年1月
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Hatimenzan Summit Promenade